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浦和地方裁判所 昭和45年(む)131号 決定 1970年6月18日

主文

本件申立を棄却する。

理由

一、本件準抗告申立の趣旨および理由は、別紙準抗告申立書記載のとおりである。

二、一件記録によると、被疑者に対する兇器準備集合、暴力行為等処罰ニ関スル法律違反、傷害、威力業務妨害被疑事件につき、昭和四十五年六月九日浦和地方裁判所裁判官は、勾留すべき監獄を代用監獄秩父警察署とする旨の勾留の裁判をしたことが明らかである。

三、刑事訴訟法第六十四条第一項は勾留すべき場所を監獄としこれに対応して、監獄法第一条第一項は監獄を四種に分類し、そのうち被告人(被疑者を含むと解する)を拘禁する所を拘置監としていること、警察署留置場は、本来逮捕留置された被疑者の身柄を短期間確保する目的のために設けられているものであること、監獄法第一条第三項の規定の趣旨等からみて、被疑者を勾留する場合は監獄を原則とするものと解すべきであり、してがって、代用監獄として警察署留置場に被疑者を勾留できるのは、監獄に拘置監としての収容力(物的施設、人的管理能力からみて)に余裕がない場合、あるいは拘置監に収容されることにより限られた期間内に迅速な捜査を遂行することに重大な支障を生ずる場合等特段の事情がある場合に限られる。

ところで一件記録によれば、本件被疑事件は、立正大学における多数の学生による組織的計画的共同犯行と疑われる捜査の状況から、共犯者間の通謀による罪証隠滅のおそれが多分に認められ、本件に関係して既に二十数名が逮捕、勾留等の身柄の拘束を受けていることも明らかである。

これらの事実のもとに前記被疑者を代用監獄に勾留するための要件を本件につき検討すれば、拘置所および埼玉県下の警察署留置場の施設の現状からみて、被疑者の代用監獄に勾留し、しかも各被疑者を分散勾留するのもやむを得ない処置といえる。

四、弁護人は、本件はおそらく事前に共謀された計画的な共同犯行とされているのであるから各被疑者がその防禦権を十分に行使するには共通の弁護人を選任し、弁護を受けることは不可欠であり、各被疑者は共通(同一)の弁護人を選任しており、本件被疑者の勾留場所を秩父警察署とすることは、弁護人依頼権及び弁護人の接見交通権を侵害するものであると主張する。

なるほど、本件は事前に共謀された計画的共同犯行ではないかとして捜査が進められていることは否定できないが、そうであるからといって、そのためには共通の弁護人を選任し、その弁護を受けることが不可欠と断定することはできない。

本件において、関係各被疑者が埼玉県下の各警察署に分散勾留されているのは事案の性質上やむを得ないものとして許されること前認定のとおりであり、他に被疑者の弁護人依頼権および弁護人との接見交通権を侵害しようとの特段の意図も、その事実も認められない本件において、弁護人が接見交通のため時間的場所的に不便である(埼玉県内における地勢、交通状況犯行現場を中心にしてみて必ずしも不便であるとも思われないが)ことの一事をもって被疑者の弁護人依頼権および弁護人との接見交通権が侵害されるとは到底解することができない。

五、よって勾留場所を秩父警察署とした原裁判は相当であり、弁護人の本件申立は理由がないので棄却すべきであり、刑事訴訟法第四百三十二条、第四百二十六条第一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 宮脇辰雄 裁判官 斎藤昭 西村尤克)

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